“ブラック学校”にメス 橘学苑に労働基準監督署から「休日残業代」で是正勧告

“ブラック学校”にメス 橘学苑に労働基準監督署から「休日残業代」で是正勧告
文春オンライン 2019/6/5(水) 6:00配信

 学校法人橘学苑(神奈川県横浜市)に対して、5月27日付で鶴見労働基準監督署が、残業代未払いなどで是正勧告ならびに指導票を出していたことが「文春オンライン」編集部の取材でわかった。

「労基署は、4月半ばに調査に入っています。休日出勤の賃金が『一律3時間』の手当で処理されていたことが、労働基準法37条(休日・深夜労働の割増賃金)に違反すると是正勧告の対象となりました。入試関係や進路担当などの職員は労働時間に見合った賃金が支払われていましたが、特定の仕事については朝から晩まで働いても、一律3時間とカウントされていたのです。その点について、事前の説明は一切ありませんでした」(橘学苑元教職員)

保護者会では「逃げるな!」と怒号が飛ぶ

 橘学苑は、「メザシの土光さん」として親しまれ、東芝社長、経団連会長などを歴任した土光敏夫氏が理事長を務めていた学校としても有名だ。もともとは土光氏の母親が創立し、現在は息子の陽一郎氏が理事長に就いている。しかし、最近では不名誉な話題でニュースを賑わすことが多かった。

 橘学苑が運営する中高一貫校では、近年、教員の大量退職が問題となっている。今年4月、共同通信が「昨年度までの6年間で120人が退職している」と報じた後に行われた保護者会では、学校側の説明に反発した保護者から「逃げるな!」と怒号が飛ぶなど、大荒れとなった。さらには、神奈川県が同校の労働環境について調査を行うまでに至っている。

 しかし、冒頭の「是正勧告」は氷山の一角だという。

「他にも給与の支給遅れやサービス残業、勤務時間の改ざんなど、“ブラック”な労働環境は枚挙にいとまがありません。なによりも職場の雰囲気を悪くしているのは、『いつ雇い止めになるかわからない』という不安定な雇用契約です。現在、教職員の約半数が非正規雇用となっています」(前出・元教職員)

 教職員の解雇をめぐっては、労働審判や民事訴訟でも争われている。そうした中、過去にはショッキングな出来事もあった。

「4年前、ある高等部の教員が、なんの前触れもなく突然行方不明となったことがあります。あえて仕事を与えられなかったり、“飼い殺し”の状態だったことを苦にしていました。彼の消息はいまだにわかりません。彼は常に有期雇用での契約で先行きが見えなくなっていったようです。担任も務めており、生徒からも好かれていただけに動揺は大きかったと思います。

 また、幹部職員による女性職員に対する執拗な誘いや嫌がらせなどのセクハラ行為、学苑関係者への暴力沙汰などがありましたが、彼はいまだに要職に就いています。きちんとした職場環境であるとは到底言えません」(同前)

学校が注力するテニススクール事業

 橘学苑は、「文春オンライン」編集部の取材に対して、労基署からの是正勧告について事実関係を認めた上で、「今後の計画については、鋭意検討しているところです。学苑は、今回の是正勧告を真摯に受けとめ労働基準監督署の指導のもと、子どもたちの良好な教育環境の確保とともに、教職員の労働環境の改善に努めて参ります」と回答した。

 しかし、どこまで「教育本位」の学校運営ができるのか。関係者からは疑問視する声も聞こえてくる。例えば、学校の敷地内で行われているテニススクール事業が象徴的だという。

橘学苑の校門脇に掲示されているテニススクールのポスター c文藝春秋「学校内にサクラドームという体育の授業用に作られた施設があります。屋内テニスコートが4面取れる大規模なものですが、平日の午前中は火曜日以外ずっとテニススクールのレッスンに使われているのです。スクールの生徒は、いわゆる“マダム”が大半ですね。夕方や土日には、学苑生徒ではない子どもが多く利用しています。

 こうした収益事業に学校側が注力して、授業料や補助金が生徒に還元されなくなったという不満は保護者の間に根強くあります」(生徒の保護者)

 なお、労基署からの是正勧告について、職員への説明はいまだに行われていないという。草葉の陰で土光さんは何を思うのだろうか――。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする